河合塾からのアドバイス 京大入試の数学「素朴な思考と高度な思考がすみ分け」
2023年は、社会の中に新型コロナウイルスが共存する形で、目まぐるしく、もとの日常を取り戻していった年であったように思います。その中で、子供たちを取り巻く環境は、インターネット配信やダブレット学習など、教育のデジタル化が著しく進化し、新時代の学習環境が誕生していると感じます。 2023年の京都大学の入試(数学)においては、昨年に引き続き、受験生に問いたい本質的な内容に変わりはありませんでしたが、かなり以前にあったような高度な内容を問う出題が復活しつつあるように感じました。 例年、文系は5題、理系は6題を出題しており、問題量が他大学と比べて多めではありますが、昨年と同様、文理とも出題の約半分は、基本的な考えの組み合わせから成る素朴な構成であり、どの問題も受験生に問いたい力が明確でした。たとえば、「題意を正確に把握する」「論理的または直感的に発想する」「的確に方法を選択する」、そして「正確に計算する」などの力です。 今年は、理系は5番、6番の難易度が高く、文系は1番の問2、3番が計算方法に工夫がいる問題でした。 特に理系の6番はチェビシェフ多項式に背景をもつ問題であり、その知識を持っていた受験生には多少、有利ではありましたが、「何に注目して論証するのか」という受験生が自らアイデアを出す部分はしっかり残っており、難問でした。 注目するための手かがりとして、(1)がありましたが、昨年の6番の具体的な計算結果(実験)から、何を読み取り(予想)、その正しさをどう説明するのか(証明法)という出題の意図を今年も感じることとなりました。 文系の1番の問2は、分母の有理化という典型的なテーマにもかかわらず、分母に設定されている無理数に工夫がなされており、序盤から純粋な「計算」に頭を悩ませる受験生は少なくなかったのではないかと思います。 また文系の3番も、計算方法や論証方法の大半は受験生の判断に委ねられており、的確さ、正確さで差が出るような問題でありました。 改めて京大入試を振り返ると昨今は、高度な数学力を問うだけではなく、典型的な題材で、的確な判断や計算方法、論理的な説明を求める出題が多くなったと感じます。 京大が発表している「出題意図」には、「『求値問題』でも答えに至る論理的な道筋も計れるように出題しています」とあります。京大は受験生の思考力を答案作成という形で積極的に見たいということでしょう。 そう考えると、5題ないし6題という多い量の出題の中で、素朴な思考や計算を問う問題と、高度な思考や技術を問う問題で、すみ分けがなされていることに納得がいきます。 京大の「対話を根幹とした自学自習」「優れた学知を継承」という精神から考えると、受験生の答案は、大学にとって「継承」の証であり、その採点は「対話」ということでしょう。 だからこそ、受験生には、誠心誠意記述することを大切にしてほしいです。また、その記述された思考過程に、無限の可能性が映し出されていることを確信しています。 私たち講師も難関に挑む未来ある受験生の可能性を心から信じ、共に伸ばして参りたいと思います。 河合塾数学科講師 西浦高志 大学受験科・高校グリーンコースでは東大・京大・医学部レベルの講座からハイレベル講座まで幅広く担当しています。また、「京大オープン模試」作成チーフやレギュラー授業の京大系テキストの作成を務めており、入試情報に広く精通しています。熱心な指導には定評があり、数多くの生徒から絶大な信頼を得ています。