土星の衛星エンケラドゥスに9600kmの巨大水柱、ウェッブ望遠鏡が発見
https://images.forbesjapan.com/media/article/63605/images/main_image_97c22c25fdb01d74b7fe0857439ba5cf932a1bbd.jpg ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、土星の小さな衛星エンケラドゥスから新たに巨大な水蒸気の水柱が宇宙に向けて放出されているところを観測した。 水柱は全長約9600kmと推定され、エンケラドゥスからこの大きさのものが放出された初めての観測例だ。 最大の目標 直径わずか500kmと小さな衛星でありながら、エンケラドゥスは地球外生命を探す宇宙生物学者にとって最大の目標となっている。というのも、エンケラドゥスはクレーターだらけで「トラ縞模様」の氷地殻(こおりちかく)の下に、深さ40kmの水の海と岩石質の海底が存在しているからだ。 エンケラドゥスの地下海(ちかかい)のような過酷な環境には、微生物や「extremophiles(極限環境生物)」が存在している可能性があると考えられている。 主として土星の引力によって、その衛星は地質学的にも活発であり、岩石コアは生命が存在するために不可欠と考えられる海に、エネルギーと熱を供給している。 しかし、その温かくて塩辛い海に目のない不気味な海洋生物がいないことはほぼ間違いない。なぜなら、そこで維持可能なバイオマス(生物量)の総量は、クジラ1頭分より少ないと計算されているからだ。 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が撮影したエンケラドゥスの巨大な水柱。その大きさは衛星自身の40倍以上におよぶ。挿入図は探査機カッシーニが写したエンケラドゥスで、赤い四角は、ウェッブ望遠鏡から見たエンケラドゥスが水柱と比べていかに小さいかを表している(NASA, ESA, CSA, STScI, G. Villanueva (NASA’s Goddard Space Flight Center), A. Pagan (STScI)) 衝撃的な発見 衛星の氷地殻の割れ目から、氷の粒子や水蒸気、有機化合物などの噴流を吐き出している間欠泉は、以前にも複数観測されている。NASAと欧州宇宙機関の探査機、カッシーニは長さ数百キロメートルにおよぶ噴流を発見しているが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が発見したものに匹敵する規模のものはかつてなかった。 「データを見ていたとき、自分は間違っているに違いないと思いました。衛星の20倍以上のサイズの水柱を見つけたことはあまりにも衝撃的でした」と、主著者でメリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターのジェロニモ・ヴィラヌエヴァはいう。「水柱は南極の噴出地域からはるか彼方まで広がっています」 噴出する水のスペクトル(NASA, ESA, CSA, STScI, L. Hustak (STScI), G. Villanueva (NASA’s Goddard Space Flight Center)) そこかしこにある水 ウェッブ望遠鏡の測定装置、NIRSpec(近赤外線スペクトログラフ)に搭載されている面分光ユニットのデータは、水蒸気が毎秒300リットル噴出していることを示唆している。 「エンケラドゥスは土星を比較的速く、わずか33時間で周回しています。土星を回る際、衛星とその噴流は基本的に水を吐き出していて、まるでドーナツのようなハローを残します」とヴィラヌエヴァは語った。「ウェッブの観測によると、巨大な水柱があっただけでなく、水はそれこそどこにでもありました」 その2022年11月9日の発見は、JWSTのGuaranteed Time Observation(GTO、時間保証観測)プログラム1250の一環として実施され、Nature Astronomyに掲載された。 氷の輪 さらにウェッブは、エンケラドゥスからの噴流が、氷と岩からなる土星の輪に供給されている様子を、初めて科学者たちに紹介した。観測によると、水分の約30%は土星のEリングに、70%はそれ以外の土星系に供給されているようだ。 NASAには、これらの巨大噴流にもっと近づくチャンスがあるかもしれない。2038年10月(予備日程は2039年11月)に打ち上げ、2050年に到達すると言われているEnceladus Orbilanderミッションでは、水柱のサンプルを採取することに特化して、探査機にエンケラドゥスを1日2回、200日にわたって周回させる予定だ。 その後探査機は衛星に着陸して数年間滞在し、衛星の地表に戻ってきた水柱物質のサンプルを採取する。それは、エンケラドゥスをあれほど明るく反射させているものの正体だ。 (forbes.com 原文)