パリ五輪会場のセーヌ川、水質に不安 「花の都」が抱える問題とは
来年7~8月のパリ・オリンピック、パラリンピック開幕まであと1年となる中、水泳競技の会場となるセーヌ川の水質が不安視されている。下水の流入などで汚染されているためで、パリ市などが急ピッチで対策を進めている。「花の都」のあまり美しくない問題を探った。 パリ五輪では、トライアスロンの水泳競技などがセーヌ川で開催される予定だ。セーヌ川は水質悪化で1923年に水浴が禁止されたが、90年以降は環境規制などで状況が徐々に改善。パリ市は「泳げるセーヌ川」の実現を、五輪招致時のアピールポイントにした経緯がある。 長年、セーヌ川の水質悪化の原因となっているのが、雨天など増水時における下水の流入だ。パリ五輪テスト大会を兼ね、8月6日に予定されていたオープンウオーター(OWS)のワールドカップ(W杯)は、大雨による水質悪化で中止となった。 パリ市では雨水と下水が同じ下水管を通って処理場に流れる。雨量が多い時には、下水管があふれるのを防ぐため、汚水を直接セーヌ川に放出する。水位が低下したところに、集中豪雨などで汚水が一気に流れ込む夏は、セーヌ川が最も汚れる季節とされる。OWSの中止は来夏の五輪に不安を与えるが、パリ五輪組織委員会の担当者は「改善計画は進行中で、本番での運営には自信がある」とコメントしている。 パリ市などは現在、セーヌ川への下水の流入を減らすため、競技用プール16~18個分に相当する5万立方メートル級の地下貯水場を建設している。約9000万ユーロ(約142億円)をつぎ込み、来年春に完成予定だ。 また、上流にある下水道が未整備の地域も深刻な汚染源とみられている。仏レゼコー紙によると、約2万3000世帯分の下水道が処理場と正しく接続されておらず、汚水がセーヌ川に排出されている。地元自治体が約14億ユーロをかけて下水道の整備を進めているが、巨額の費用が批判の対象となっている。 パリには下水処理で苦闘してきた歴史がある。18世紀にはトイレの未整備や地上の下水溝が放つ悪臭が問題となり、19世紀になって地下下水網が張り巡らされた。セーヌ川は70年代に工場排水などで汚染が最も進んだ。その当時は3種類の魚しか確認されなかったが、環境規制で現在は30種類以上に回復した。だが、増水時には下水の流入のほか、川底に長年堆積(たいせき)した汚物が巻き上がり、水質悪化の原因となっている。 パリ市は五輪終了後の2025年には市民や観光客が水浴を楽しめるようにする計画だが、安全上の理由から、ブイなどで仕切った3カ所の水浴場に限定する予定だ。【パリ宮川裕章】