「グラコロ」にゴキブリ?投稿者にバッシング 先日、マクドナルドの冬の人気ハンバーガー「グラコロ」のバンズの間から生きたゴキブリが飛び出してきたとSNSで投稿をした人が、「正義の裁き」を受けた。 「マックでバイトして4年の経験から言わせてもらうと、油であげるグラコロに生きたゴキブリが入るわけねえだろ」「お前、絶対仕込んだやろ。法的措置取られるのも時間の問題やろな」などとネットやSNSで批判されたのだ。 事の発端は「グラコロ」が新発売された11月末に、テイッシュで潰したゴキブリの画像とともにこんな投稿(現在は削除)がされたことだった。 「1/4ぐらい食べた時に、中から小さなゴキブリが出てきて、まだ生きていて、逃げていきました。その後壁を走っているのを見つけ、その後ティッシュで殺しました」 これに反応をしたのが、ネットやSNSで悪を叩くことを生き甲斐とする人々だ。 「生きたゴキブリ」というわりに動画を撮っていないということは100%うそだと「クロ判定」をした。SNSで注目を集めたい愉快犯か、マクドナルド側から謝罪と無料券を頂戴するための恐喝犯に違いない、と投稿者をボロカスに吊し上げているというワケだ。 一方、マクドナルド側はメディアの取材に対して、このような申し出があったという事実は認めつつも、ゴキブリという現物を回収していないので詳細は答えられないとした。この客にお詫びをして無料券を渡したという。 つまり、当事者同士はすでに「手打ち」となっているが、悪を見逃さない正義の人々が「うそくせえ」「怪しい」という感じで、「私刑」を続けているという構造なのだ。 ただ、企業危機管理の仕事で異物混入を嫌というほど扱ってきた立場から言わせていただくと、「ゴキブリが生きたまま、ハンバーガーのバンズや野菜の中に紛れ込む」なんてことはちっともうそくさい話ではなく、むしろザラにある。 まず、ゴキブリという生物が、地球上で最強クラスに「しぶとい」という事実がある。そこにくわえて、外食業界では「生きたカエル」がカット野菜の中に紛れ込んで、うどんの中にまで入り込むという前例もあるくらいなのだ。 そう聞くと思い出す人も多いだろう。そう、丸亀製麺の「カエルうどん」騒動だ。 丸亀製麺でも大炎上、新鮮な食べ物には「異物」が入る 今年5月、丸亀製麺の新製品「シェイクうどん」が発売されて早々、器の中に生きたカエルがちょこんと座っている画像がSNSで拡散され大炎上、ワイドショーなどでも大騒ぎをする事態になったのはまだ記憶に新しいだろう。 実はこの時も、ネットで正義のお仕置きをすることをライフワークとする人たちが、投稿者を「自作自演」「恥を知れ」とボロカスに叩いた。この直前にも、イトーヨーカドーで販売されていたサラダにカエルが混入していたことが報道され、「おおかた今、カエルが入っていたとか騒げばバズると思って、その辺でカエルを捕まえてきて仕込んだだろ」と「クロ判定」されたのだ。 ただ、実は「カット野菜」には、生きたカエルが入り込むことは過去、定期的に発生している。日本だけではなく、アメリカなどでもずいぶん前から報告されている。 新鮮な野菜には虫やカエルがつくし、卵を生むのは当然だからだ。それらをすべて殺すよう消毒をすれば、虫やカエルは寄り付かないが、そんなものは人間も食べられない。もちろん、カット野菜の製造過程で、AIや目視で異物混入がないかはチェックするが、それもどうしても100%ではない。 そのあたりは、《丸亀製麺「カエル混入」で自作自演を疑う人が知らない、カット野菜のリスク》の中で詳しく解説しているので、ご興味のある方はお読みいただきたい。 さて、カエルでも簡単に紛れ込めるところに、カエルよりもさらに小さくて、カエルよりもすばしっこいゴキブリが紛れ込めないわけがない。 実際、多くの日本人が目を背けているだけで、食品調理や製造の世界では、ゴキブリ混入など日常茶飯事で起きている。 国内外で発生する「ゴキブリ混入」 例えば、今年2月、あるSNSユーザーが、マグドナルドのハンバーガーのエッグとハンバーグの間に、体長約9ミリの「チャバネゴキブリ」が見つかった写真を投稿。投稿者は現物をマック側に渡して保健所にも届け出た。マックから委託された外部検査機関はこう結論づけた。 《外部検査機関は、虫の死骸から酵素の反応がなくなっており、そうなるのに十分な熱の影響を受けている可能性が高いとも指摘した。このことから、「店舗調理のいずれかの工程で混入した可能性は否定できません」と明らかにした。その一方で、「明確な混入経路の特定には至りませんでした」とも報告した》(J-castニュース3月10日) 日本を代表するコンビニ・セブンーイレブンでも起きている。今年8月に「梅香る混ぜ飯おむすび 紀州南高梅」の中にゴキブリが入っている、という指摘が2組の客からあって、埼玉県内の約370店で販売された約2000食を自主回収した。 そう聞くと、「死骸ならば混入をすることだってある!生きたゴキブリが入るのがありえないと言っているのだ!」と今すぐ正義のリンチをしたくてウズウズしている人もいらっしゃるだろうが、生きた虫が混入することも定期的に報告されている。 今年6月、セブンーイレブンの「北海道グルメフェア」として販売した「蒸し鶏と半熟玉子のラーメンサラダ」の容器の中に、小さな虫が動いている映像がSNSで投稿されて、これも大きな話題になった。 また、2022年4月、SNSで話題になったのは牛丼の「すき家」で店員が持ってきた麦茶の入ったコップにゴキブリが浮いていたというものだ。こちらも投稿者は「うそつき」と叩かれたが、「すき家」は混入の事実を認めている。 ちなみに、このような「ゴキブリコップ」騒動は海の向こうに目を向ければもっとある。 今年4月、韓国メディア「聯合ニュース」が報じたところによれば、韓国の京畿道(キョンギド)のロッテリアに8歳の娘と訪れた女性は、セットメニューを注文した。そして、出てきたコーラを飲み干したところ、その底には氷の大きさほどの、生きたゴキブリがいたという。 また2022年、中国のSNSでの新浪微博(シンラン・ウェイボー)でも、スタバのコーヒーカップの中に、生きたゴキブリが混入している画像が拡散された。 もちろん、これらも「自作自演」「仕込み」「うそ」と叩く人がいる。確かに、広い世の中だ。いろんな人がいる。どこかで生きたゴキブリを捕まえて、わざとコップに紛れ込ませるようなイタズラをして、腹の中で大笑いをしている可能性もゼロではない。 ただ、先ほども申し上げたように、世界的に見れば、外食や食品製造に虫やカエルが混入することなど、ちっとも「ありえない話」ではないのも事実なのだ。外部検査機関が調べても混入経路がわからない虫やカエルの死骸がたくさん見つかっているという事実を踏まえれば、なにかしらの方法で厨房に侵入して、食材の中に身を潜めて、そこでうまく生きながらえてきたゴキブリやカエルがいたって、特に不思議でもなんでもない。 ゴキブリは「史上最強のしぶとさをもつ生物」 そこに加えて、筆者がこのように考えるのは、ゴキブリが「史上最強のしぶとさをもつ生物」だからだ。 よく言われることだが、ゴキブリは核戦争後の地球でも繁栄できるほど生命力が高いと言われる。もちろん、放射能に対して強いのは、ゴキブリだけではなく、すべての虫に当てはまる。しかし、何よりもゴキブリは、スリッパで叩いても死なず、逃げ回ったりするなど生命力が強く、食欲も旺盛だ。 NewsWeek日本版の「ゴキブリが核戦争をも生き延びる理由」(22年10月13日)の中には、オーストラリアのロード・ハウ島というところで、外来種であるネズミのせいで80年前に絶滅していたと思われていたゴキブリが、実はしぶとく生きていたことが最近になって発見されたという。 このようにゴキブリは徹底的に殺しても、いくら駆除しても、外敵の目を盗んで、どこかで必ずしぶとく生きながらえる「最強の生物」なのだ。 それはつまり、飲食店の厨房や食品工場が、定期的に害虫駆除をしたり、衛生管理を徹底したところで、必ずどこかに潜んでいるということだ。だから当然、ハンバーガーのバンズやサラダの間にも紛れ込む。人間がいくら目を光らせても、それを完全に防ぐことは困難だ。 料理に生きたカエルが入っていた。食品に生きたゴキブリを見た――。自分たちが毎日食べているものに対して、そんな気持ちの悪い話をする人を「うそだ」「自作自演だ」と叩きたくなる気持ちはよくわかる。ただ、野菜や肉など自然由来の原料を使って、人間が調理をしているわけだから、こういうヒューマンエラーはあって当然だ。むしろ、「ありえない」と考える方が不自然である。 日本では「安心・安全」を社会全体でうたいすぎてしまったせいで、強迫観念のように「無菌」「清潔」「ゼロリスク」を追い求めしまうきらいがある。 しかし、本来、人間の体など雑菌だらけだし、我々の身の回りに微生物やら菌やら虫があふれている。野菜や肉、魚にも菌や微生物は山ほどついているし、小さな虫など気づかないうちに一緒に口に入れている場合もある。 ネジだとか鉄片などの混入は被害もあるが、虫やらカエルの混入など、食中毒になるわけでもない。かつては、見つけてもピッとよけて、「すぐ作り直します」でよかったはずだ。 「虫が入っていた」とわざわざ写真に撮ってアップして騒ぐ方も、それに対して「うそ」「自作自演」と叩く方も、もっとおおらかな気持ちで、「異物混入」というものに接してみてはいかがだろうか。 (ノンフィクションライター 窪田順生)