テニス、マラソンの変化についていけない日本メディアの前時代感
【スポーツ時々放談】 テニスの「木下グループジャパンオープン選手権」は米国の新鋭ベン・シェルトンのツアー初優勝で幕を閉じた。全米大学体協(NCAA)からプロ転向して1年目の21歳で、先の全米オープンでいきなり4強、父ブライアンは松岡修造と同世代の選手だった。 錦織圭の欠場、東京五輪金メダリストのズべレフは初戦敗退……それでも客席は想像以上に埋まった。日本のディープなテニス理解を裏付ける光景に、ダニエル太郎も驚いたという。世界ランク97位のダニエルは、西岡良仁(同44位)と共に錦織世代を代表し日米欧に拠点を作った国際派だけに、コメントは参考になる。予選で野口莉央、世界358位と対戦した。 「日本選手のレベルが上がっているのに驚いた。島袋君にしても、国内にかなりの情報と指導力があることが分かった」 今回は初戦で敗れたが、島袋将は早大卒業後にプロ転向した晩稲ながら、今年のウィンブルドン、全米の予選を突破し、今年ここまでの賞金獲得は3400万円だ。ダニエルはかつて、海外拠点のあるなしで情報の質も量も練習時間も格段に違うと話していた。実際に、錦織、西岡、今回活躍した望月慎太郎のように盛田ファンドの支援を受け、ジュニアの早い段階から米国のアカデミーで研鑽するのが世界への近道とされてきた。 そうした環境の変化を率直に感じたようだ。テニスだけではない。駅伝、マラソンで、厚底シューズの開発競争により記録の概念が変わったことは以前に書いた。 記録だけではない。8月にメキシコシティーマラソンで参加者の3分の1、1万1000人が“不正ゴール”とのニュースが流れた。大阪、名古屋と同じ世界陸連ゴールド大会だから何か手違いだろうが、マラソン歴40回の元メキシコ大統領候補のコメントが面白かった。 「今のマラソンは、参加者全員が絶対ゴールしようと考えてスタートするわけじゃない。日頃の練習をしっかりした条件で確認する、雰囲気を味わう、参加賞が欲しい、いろいろいるんだ」 ひたすら「オリンピック代表」を連呼する日本のスポーツメディアは、こうした変化、多様化にはついていけないようだ。その証拠に、ジャパンオープンの会場は大会史上最高の観客で埋まったが、プレス席だけはガラガラだった。 (武田薫/スポーツライター)