Friday, December 8, 2023

後戻りできない五つの地球の変化「転換点近い」 英大など報告書

 英エクセター大などのチームは6日、深刻化する温暖化によって、人類や地球にとって後戻りできない変化を起こす「ティッピングポイント(転換点)」に、まもなく到達するおそれがあるとの報告書を発表した。筆者のティム・レントン教授は朝日新聞のインタビューに「転換点に達することは社会の崩壊を意味する」とし、早急な対策を促した。 【画像】「転換点に達することは社会の崩壊を意味する」と語る研究者  中東ドバイで開催されている国連の気候変動会議(COP28)で発表された。  緩やかに見えた温暖化の影響は転換点に達すると、突然激化し、後戻りできない変化を引き起こすと言われる。リスクがあるのは、グリーンランドと西南極の氷床、永久凍土の融解、熱帯のサンゴ礁の死滅、海洋の流れである大西洋南北熱塩循環(AMOC)の停止の五つ。時期は明示していないが、複数の現象がドミノ倒しのように連鎖するおそれもある。産業革命前からの気温上昇が1・5度を超えれば、他の転換点も加わる。  すでに溶け始めているグリーンランドや西南極の氷が大規模に崩壊すれば、数メートルの海面上昇が起こりうる。大西洋を南北方向に流れるAMOCが停止は、欧州の寒冷化のほか、降雨パターンや食料生産にも影響を及ぼす。  レントン氏は、異常な暑さを記録した今年は「一時的に転換点を超えたように見える。転換点が近づいているシグナルかもしれない」と話した。所得格差をめぐって争いも生むという。「過去に崩壊した全ての文明で起きたような根本的リスクだ」と話した  一方、改善に向かうための転換点にも近づいているという。電気自動車(EV)や再生可能エネルギーなどの技術革新だ。例えば、EVが普及すれば、蓄電池のコストが削減され、再エネの貯蔵もしやすくなる。  その上で、世界の化石燃料を2050年までに段階的に廃止することを提案。影響を強く受ける脆弱(ぜいじゃく)な国で、世界的な不平等が生じないよう、変化に適応し、被害を救済するための仕組みをさらに強化すべきだとした。(市野塊)

iPS細胞からヒト受精卵に似た構造を再現 京都大が論文発表

 iPS細胞などから、ヒトの受精卵(胚〈はい〉)に似た構造を作り、体ができる初期段階を再現することに京都大iPS細胞研究所などのグループが成功し、5日英科学誌ネイチャー(https://www.nature.com/articles/s41586-023-06871-2)に発表した。ヒトの発生や不妊の仕組み解明につながると期待される一方、急速に進む技術をどう位置づけるか世界中で議論されている。 胚モデルの作り方のイメージ  精子と卵子が受精してできた胚が子宮に着床し胎児に育っていくが、初期に胚が成長する仕組みはよくわかっていない。動物とヒトには違いがあり、ヒト胚でないとわからないことが多い。しかし、人間に育つ本物のヒト胚の研究は倫理的に制限されている。着床後の胚を観察することもむずかしい。  そこで、ヒトの発生の仕組みを理解する研究手法として、iPS細胞や受精卵から作る胚性幹(ES)細胞といった多能性幹細胞を使い、胚そっくりな構造「胚モデル」を作る研究が進められてきた。これらの細胞は大量に作製でき、研究の制限はない。  胎児が育つには、体を作る細胞、栄養や成長するための信号を送る「原始内胚葉」になる細胞、母親と胎児をつなぐ胎盤になる細胞の3種類の細胞が必要だ。  グループは普通のiPS細胞よりも発生の初期段階の細胞に近い「ナイーブ型多能性幹細胞」を2014年に作製した。この細胞と、グループが開発した方法で原始内胚葉に分化させた細胞を、いっしょに培養すると着床前の胚モデルができた。

「試される最後の20分」 月探査機SLIM、着陸は来年1月20日

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5日、9月に打ち上げた月探査機「SLIM(スリム)」の月面着陸を来年1月20日未明に実施すると発表した。着陸に成功すれば、旧ソ連、米国、中国、インドに次いで世界で5カ国目となる。 月探査機「SLIM(スリム)」とX線天文衛星「XRISM(クリズム)」を搭載し、打ち上げられたH2Aロケット47号機=2023年9月7日午前8時42分、鹿児島県の種子島宇宙センター、朝日新聞社ヘリから、日吉健吾撮影  H2Aロケットで打ち上げられたSLIMは、現在は月軌道より遠い位置にいる。計画では、今月25日に月周回軌道に入り、来月20日午前0時ごろに高度15キロから降下を始め、約20分後に月の赤道の南にある「神酒(みき)の海」への着陸をめざす。  天体への着陸は、小惑星、火星、月の順で難しさが増すとされる。月の重力に引っ張られ、落下速度が急激に増す中、大気がなくパラシュートが使えないため、逆噴射で速度を抑え、機体を制御する高い技術が必要だ。  JAXAの坂井真一郎・プロジェクトマネージャはこの日の記者会見で「試されるのは着陸の最後の20分間。20年かけて開発してきたものが、最後に試される20分を何とかしてクリアしたい」と語った。  たった20分で時速6400キロから急減速し、800キロ先に降りる技術。月を日本列島に例えるなら、航空機の数倍の速さで北海道の新千歳空港を出発し、20分後に兵庫県の甲子園球場内に着地するほどの難しさという。  重力の弱い小惑星への着陸と異なり、降下を始めたら後戻りできない「一発勝負」(坂井さん)となる。

PFASの一種「PFHxS」を製造使用禁止へ 6月から輸入できず

 環境省は28日、健康への影響が懸念されている有機フッ素化合物(総称PFAS)について、新たに「ペルフルオロヘキサンスルホン酸」(PFHxS)を製造や使用を原則禁止する物質に追加すると発表した。この物質を使った製品は、現在国内でつくられていないが、来年6月から海外からの輸入も原則禁止になる。 【図解】PFASが使われてきた例  PFASは自然界でほとんど分解されず、人体に取り込まれれば体内に長く残るため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。数千種類が存在するうち、代表的なPFOSとPFOAは、すでに製造・使用が原則禁止。PFHxSは22年6月のストックホルム条約会議で追加が決まり、国内でも対応した。  環境省によると、海外では水や油をはじくレインコートやスキーウェア、消火剤などに使われている製品があるという。PFOSやPFOAのような水質の暫定指針値は現時点でない。(市野塊)

首都圏唯一の原発で事故が起きたら? 放射性物質の拡散予測を公表

 首都圏唯一の商業炉で、半径30キロ圏に全国の原発で最多の約92万人が暮らす日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村、出力110万キロワット)。30キロまで避難が必要になるのはどんな状態で、影響はどこまで広がるのか? 茨城県が公表した東海第二原発の放射性物質の拡散予測図。事故の想定や風向きなどを変えた計22通りを日本原子力発電が試算した  茨城県は28日、そんな事故が起きると放射性物質がどれくらい拡散するかの予測を示した図を公表した。運転中に炉心がメルトダウンした想定で、県が原電に試算を依頼したという。  公表したのは、代替ポンプや非常用電源などの一部が使えたものの原子炉を十分に冷却できず、フィルター付きベント装置を使って放射性物質を放出した場合(シミュレーションⅠ)と、高台にあるポンプ車以外が使えなかった場合(シミュレーションⅡ)の2パターン。風向きや気象条件を変えてそれぞれ11通りずつ、計22通りの図だ。  気象については、風の方向が長時間一定だったり、長雨が降ったりと、30キロ圏の線量が高くなりやすい三つの条件を設定したという。  原発事故が起きると、5キロ圏の住民(東海第二の場合は東海村全域、日立市・ひたちなか市・那珂市の一部の約6万4千人)は放射性物質が放出される前に予防的に避難する。  5~30キロ圏の住民は原則、屋内退避で、空間線量の実測値が高かった区域は、基準に応じて数時間以内に避難、または1週間以内に避難(一時移転)をする。  シミュレーションⅠは、5キロ圏の約6万4千人は避難するものの、5~30キロ圏では、避難は必要ないという結果だった。  シミュレーションⅡは、5キロ圏の住民に加え、5~30キロ圏で那珂市とひたちなか市の最大約10万5千人の避難(一時移転)が必要になる結果だった。5キロ圏の約6万4千人と合わせ、約17万人が避難対象になるという。  シミュレーションⅡは、「30キロ周辺まで避難・一時移転が必要になる事故を想定してほしい」という県からの要請で試算された。  今回の試算では、避難の基準を超えたモニタリングポスト(環境中の放射線を測定する装置)ごとに決められた区域の住民が避難する設定のため、実際の事故時は、緊急測定による実測値によってさらに増える可能性があるという。

排気ダクトからウラン粉末170キロ 26年間未点検の核燃料事業所

 原発の核燃料を加工する「原子燃料工業」(本社・横浜市)の熊取事業所(大阪府熊取町)で、約26年間にわたり点検されていなかった排気ダクトの内部に約170キロのウラン粉末がたまっていたことが分かった。22日の原子力規制委員会の定例会で報告された。 原子力規制委員会の入るビル=東京都港区  外部への漏洩(ろうえい)や、従業員の被曝(ひばく)線量が増えるといった影響は確認されていないという。  規制委によると、今年4~5月に排気ダクトの改造工事をした際にウラン粉末がたまっているのが見つかった。同事業所では、核燃料の原料であるウラン粉末を扱う設備から放射性物質が漏れないよう、気圧を管理する排気設備がついている。この排気設備からウラン粉末が吸い込まれ、排気ダクトにたまっていたという。  規制委は、設備の構造から排気ダクトにウラン粉末がたまることは予測できると指摘。適切に点検せず、大量のウラン粉末が排気ダクトにたまった結果、大きな地震が発生すればウラン粉末の一部が環境中に放出される恐れがあったとして、問題だと判断した。  一方、核分裂が連続して起こる「臨界」になるには少なくとも約2千キロのウラン粉末が必要といい、臨界になる恐れはなかったと評価。すでにウラン粉末は回収され、排気ダクトも粉末がたまりにくい構造にするなどの対応がとられているという。(福地慶太郎)

西之島で新たな島誕生から10年 今も立ち上る白い噴気、周辺は変色

 2013年11月20日に西之島近くの海底で噴火が確認され、陸地が誕生した。溶岩の噴出が続いて翌12月にはもとの西之島と一体化。さらに島は拡大していった。 2013年の噴火から10年を迎える西之島=2023年11月3日、東京都小笠原村、朝日新聞社機から、恵原弘太郎撮影  10年後の11月3日、朝日新聞社機「あすか」からの取材では、島中央の火口や斜面から白い噴気が上がり、周辺海域は茶色や緑色に変色していた。火山活動が続いていることがうかがえた。  西之島の生態系も火山活動でいったん失われた。リセットされた後の生態系にも注目が集まる。上空からは、一時期より減少しているものの、島内では海鳥が確認できた。  本社機に同乗した中田節也・東京大学名誉教授(火山地質学)は「断続的だが、これだけ長く続くということは当初、考えなかった。小笠原諸島全体の火山活動が非常に活発な時期にきていると思う」と話す。(黒沢大陸、矢田文、佐々木凌)

スペースXの新型ロケット打ち上げ 切り離した宇宙船、信号途絶える

 イーロン・マスク氏が創業した米宇宙企業スペースXは米中部時間18日朝(日本時間夜)、テキサス州で史上最大のロケットと宇宙船「スターシップ」の2回目となる打ち上げ試験を実施した。打ち上げられた宇宙船はロケットから切り離されて宇宙空間に出たが、その後、信号が途絶えたという。一方、ロケットは切り離した直後に空中で爆発した。 【画像】爆発を「失敗」としないスペースXの前向き姿勢  スターシップは現地時間18日午前7時過ぎ(日本時間18日午後10時過ぎ)、スペースXが拠点としているテキサス州ボカチカの「スターベース」で打ち上げられた。  打ち上げから約3分後、宇宙船はエンジンを点火してロケットから分離することに成功。ただ、海上に着水する予定だったロケットは空中で爆発した。  その後、宇宙船は高度を上げて宇宙空間を飛んでいたが、同社によると、信号が途絶えた。同社は「(宇宙船が)失われたかもしれないと考えている」としている。

クマ捕獲の資金支援拡大を 「指定管理鳥獣」化へ環境相が検討指示

 クマによる人身被害が全国で相次いでいることを受け、環境省は13日、捕獲や駆除のための交付金の対象となる「指定管理鳥獣」にクマを追加する検討を始めた。北海道東北地方知事会からの緊急要望を受け、伊藤信太郎環境相が指示した。 【動画】攻撃する親子のクマ  指定管理鳥獣は鳥獣保護管理法に基づき定められる。都道府県がつくる管理計画の下、捕獲や生息状況の調査のための交付金がつく。現在は広域で増えているイノシシとニホンジカが対象。  クマの捕獲に対する国からの支援は現状、農作物被害の防止に対するもののみだ。知事会は、捕獲する人の確保や報酬などに資金が必要だと求めた。環境省は、今後専門家の意見を聞きながら進める。  2023年度のヒグマとツキノワグマによる人身被害は10月末時点で180人で過去最多。死者も5人に上る。生息域の広がりやエサ不足が一因とみられている。(市野塊)

コオロギでも育ったゲンゴロウ 学芸員「メリットの大きな選択肢」

 極めて絶滅の恐れが高い水生昆虫「シャープゲンゴロウモドキ」が、簡単に手に入れられる生き物をエサにしても、野外で食べるエサと同じくらい成長することを、石川県ふれあい昆虫館(同県白山市)の研究チームが突き止めた。 コオロギをエサにして育ったシャープゲンゴロウモドキのメス=石川県ふれあい昆虫館提供  エサ生物の捕りすぎや、エサが入手できる時期しか育てられないといった課題の解決につながる。  シャープゲンゴロウモドキは体長約3センチの大型のゲンゴロウ。環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠA類に選定されている。国内では千葉県や石川県、福井県などのごく限られた地域に生息する。  実験では、各地の水族館や昆虫館などでも使われているキンギョやコオロギ、ミズムシという小さな水生生物を代替エサとして用意。シャープゲンゴロウモドキの幼虫に与えた。小さい頃はミズムシで、少し大きくなってからはキンギョやコオロギで育てた。  成虫になるまでの過程で、シャープゲンゴロウモドキが野外で食べているヤマアカガエルのオタマジャクシを与えた場合との成長速度や生存率、成虫の大きさも比較した。  その結果、キンギョやコオロギ、ミズムシを使った手法でも、オタマジャクシを与えた場合と目立った差はなく育つことがわかった。  一方で、シャープゲンゴロウモドキは成虫になるまでにオタマジャクシを80~101匹も食べた。ヤマアカガエルは絶滅危惧種ではないものの、環境省が続けている全国的な生物調査では、減少傾向がうかがえる。研究チームには、シャープゲンゴロウモドキを増やすためとはいえ、野外からヤマアカガエルを大量に捕獲してきて与えていいのかという問題意識があった。  研究チームの渡部晃平・学芸員は「生きたエサがどうしても必要だが、自然に負荷をかけないという点でメリットの大きな選択肢になる」と意義を語る。

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