Saturday, March 25, 2023

スシローペロペロ騒動 少年は憔悴し自主退学 重罪か悪ふざけか、過剰な熱量への違和感

 ワイドショーやネットニュースを連日賑わせている、回転すしチェーンでの迷惑行為騒動。「食の安全神話」「日本人の国民性」「性善説」──そんなお題目が並ぶが、過剰な熱量に違和感を覚える人も少なくないようだ。

【写真】金髪少年がしょうゆボトルをペロペロする瞬間!

《テーブルに備え付けの食器や調味料の交換をご希望のお客様には新しいものをお持ち致します》。回転すしチェーン『スシロー』の岐阜正木店の入り口ドアには、そう書かれた真新しい紙が張り出されていた。店内に入ると、回転するレーンの上にあるのは、すしの写真やイラストをのせた皿。回ってくる新鮮なネタを眺めて「どれを食べようか」と吟味する回転すしの楽しみは消え去っていた──。

「#回転寿司テロ」。そんなハッシュタグをつけられたいたずら動画がSNS上で拡散し始めたのは、1月下旬だった。『はま寿司』では、レーンを流れるすしの1カンだけをつまんで食べる、ほかの客が注文したすしに勝手にわさびをのせるといった迷惑行為が行われていた。一度取ったすしを再びレーンに戻す動画は『くら寿司』で撮影されたものだ。

 挙げ句の果ては、冒頭のスシローだった。金髪の少年がしょうゆボトルの注ぎ口や未使用の湯飲みを舐め回して元の場所に戻し、回転レーン上のすしネタに唾液をつけた指で触れるといった行為が動画に収められていた。スシローは迷惑行為を受け、当該店舗のすべてのしょうゆボトルの入れ替えと、湯飲みの洗浄を余儀なくされた。動画拡散後、株価は160億円以上も下落。大損害だった。

 渦中の少年は、岐阜県内の公立高校に通う男子高校生だった。近隣住民によると「近所の畑仕事の手伝いもしてくれる素直な子」だという。

「普段は黒髪で、“冬休みの間だけハジけたい!”と両親の許可をもらって金髪にしていました。気が大きくなっていたんでしょうが、まさかその冬休みにあんな迷惑行為をしてしまうとは……」(前出・近隣住民)

 スシローの運営会社は、1月31日に警察に被害届を提出。さらに次の声明を発表した。

「迷惑行為を行った当事者と保護者から連絡があり、お会いして謝罪を受けましたが、当社としましては、引き続き刑事、民事の両面から厳正に対処してまいります」

 すでに「高校生の悪ふざけ」という範囲を逸脱してしまった。評論家の呉智英氏が分析する。

「当人は“悪さ自慢”の感覚でやったのでしょう。仲間内でふざけあっている分には拡散しないが、SNSに投稿すれば全世界に広がり、“消えない傷”として一生残る。何かというとネットに写真や意見をのせるけれど、その恐ろしさを理解できていない」

 スシローでの迷惑行為の動画は、その後もSNSにアップされ続けている。2月に入ってからは、席に備え付けの甘だれの容器にしょうゆを混入させる女性の動画が炎上している。迷惑行為自体、言語道断であることに変わりない。その上、SNSでの「いいね」を欲するがために余波を想像せずにSNSにアップしたのは、二重の意味で“バカ”だったのだろう。

怒りの増幅はエネルギーの無駄遣い

 騒動が起きてから、少年が通っていた高校にはクレームの電話が相次いだ。また、スシローの運営会社でも、来店客の監視態勢や品質管理を疑問視する怒りの電話が鳴り止まなかったという。呉氏が続ける。

「直接被害を被っていないにもかかわらず、今回のような事態を目の当たりにすると、正義を訴えたい気持ちが強くなるんです。電話をする人も、動画を拡散する人も、“いまの社会は乱れている”“こんなけしからん事例がある”と純粋な正義感で行動する。人間の心理として、自分は正義の側に立ちたいという思いがあるのでしょう。しかし、時として行きすぎた正義感が、違った方向へ向かってしまいかねません」

 実際、動画の拡散は、情報の共有というより怒りの波動のように伝わっていき、ついには「#ネット処刑」という言葉がトレンド入りしたほどだ。だが「処刑」という言葉はいささかエスカレートしすぎにも感じられる。エッセイストの辛酸なめ子氏は、少年の行為は「おもしろさをはき違えた若者の奇行、蛮行」と前置きして、こう話す。

「動画を見て不潔だと思ったり、嫌悪感を抱いて一時的に怒りを覚えるのは普通の反応だと思いますが、自分が直接被害を受けていないのに、何度も動画を見て怒りを増幅させる人々はエネルギーの無駄遣いをしているようにも感じます。少年たちのレベルの低さに、降りていってしまう感覚になるというんでしょうか。そうなったら彼らの思うつぼです。

 被害を受けた企業の厳しい対応や、少年が反省しているなどのニュースを見て、ホッとするぐらいがちょうどいいんだと思います」

 怒りを増幅させるのもまた、騒動に踊らされた“バカ”だと言わざるをえない。その感情は、過剰なまでに少年と家族へと向けられた。

「今回のことで、少年も両親も憔悴しきっています。“これ以上、学校に迷惑はかけられない”と高校を自主退学しました」(前出・近隣住民)

「子供が触ったりとか普通にある」

 現在、スシローの各店舗では、テーブルとレーンの間の一部にアクリル板を設置するなどの緊急措置がとられている。しばらくの間は全国の店舗で、注文を受け次第商品を提供する形態で営業していくという。

 もちろん飲食店において、店側の衛生管理は何より重要なものだ。しかし、そもそも回転すしは「利用客が節度とモラルを持っている」ことを前提にしなければ、安心して楽しめないシステムでもある。

「いたずら動画を目にすると、もしかしたら、自分がそれを口にしてしまうかもしれないという嫌悪感が募る。時間が経てば“そんな事件もあったね”で済ませられるようになるかもしれませんが、当面は“スシローには行きたくない”と思ってしまうのは避けられないことなのでしょう」(前出・呉氏)

 それどころか、「回転すしチェーンではどこでも行われているのではないか」と忌避する声も聞こえてくる。だが待ってほしい。スシローだけを見ても、全国に600店以上展開している。“ぺろぺろ動画”は、そのうちの1店舗の、1席のしょうゆボトルと湯飲みに行われたに過ぎない。そのためだけに、スシローはおろかほかの回転すしチェーンにも“行かない”という選択をするほど恐れるのは、拡大解釈が過ぎるのではないだろうか。

 2月3日、匿名掲示板『2ちゃんねる』の開設者で実業家のひろゆき氏は、ネット番組『ABEMA Prime』で次のように話した。

「たしかに高校生は悪いと思うんですけど、ああいうところって子供が触ったりとか普通にある。ボックスシートの回転すし屋ってそういうもんだよね、って話だと思う」

 騒動後、SNS上に1本の動画が投稿された。スシローで初めて大トロを食べた9才の男の子。テーブル席で大トロをほおばると、天を仰いで至福の表情を浮かべるのだ。回転すし店はそんな光景が見られる場所で、SNSはそんなほっこりとした感情を共有できるツールであってほしい。

※女性セブン2023年2月23日号

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