Thursday, March 30, 2023

「人魚のミイラ」の正体判明、倉敷芸術科学大などが初の科学的調査

 人魚のミイラは人魚じゃなかった――。岡山県浅口市の寺に伝わる「人魚のミイラ」について、倉敷芸術科学大(倉敷市)などは7日、CT(コンピューター断層撮影法)を使い調査した結果、魚や綿などで成形した工作品だったと発表した。人魚のミイラは全国に十数体確認されているが科学的な調査は初めてで、正体がわかるのは異例という。(矢沢寛茂)

 ミイラは同市の円珠院に保管され、体長約30センチ。サルのような頭部に歯や頭髪、両手には爪があり、下半身はうろこや尾びれがある。寺に託された経緯は不明だが、明治36年(1903年)11月の日付が入った文書が添えられ、江戸中期に高知沖の漁網にかかった「奇代乃魚」(世にも珍しい魚)として大阪で売られたなどと記されている。

 同大は昨年2月から寺の協力のもと、生物学や魚類の専門家が共同で、CTや物質を詳しく調べる蛍光X線を使い調査していた。その結果、下半身は日本の沿岸部に生息する魚の「ニベ」の一種と判明。ひれとうろこがついた表皮を残して骨や肉を取り除き、布や綿を詰めていた。

 上半身は大半が綿の詰め物で、しっくいや石こうなどで表面を固め、フグの皮をかぶせていた。電子顕微鏡で観察すると、頭髪には哺乳類特有のたんぱく質が見えることから、動物の毛を貼り付けた可能性が高いという。爪は人間やサルなど霊長類のものに似た特徴があることもわかった。うろこを年代測定した結果、1800年代後半に作られた可能性が高いという。

■「大切に守る」

 人魚のミイラの謎が科学の力で明らかになったことについて7日、記者会見した研究者は「貴重な体験になった」と話し、寺の住職は「これからも大切に守りたい」と述べた。

 調査した倉敷芸術科学大の加藤敬史教授(古生物学)は、「これだけ詳細な人魚のミイラに関する研究が行われたのは初めて。人魚が人々にどのように受け入れられていたかを探る上で、大きな一歩となった」と意義を説明した。

 円珠院の柆田(くいだ)宏善(こうぜん)住職によると、ミイラは長年、地域の貴重な遺産として住民から愛されてきたという。柆田住職は「人魚のものではなかったが、命ある生き物を使っていたことは確か。大切に保管し、作った人や現代まで守ってきた人の思いを、伝えていきたい」と晴れやかな表情で語った。

(下林瑛典)

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