各地で相次いだ広域強盗事件で「ルフィ」などと名乗ってフィリピンから犯行を指示した疑いがある4人のうち、警視庁は7日、強制送還された今村磨人(38)、藤田聖也(38)両容疑者を特殊詐欺事件に絡む窃盗容疑で逮捕した。同国に残る渡辺優樹(38)、小島智信(45)両容疑者も9日未明の航空機で送還、逮捕される見通し。事件は大きな進展をみたが、まだ一網打尽ではない。黒幕の存在が指摘され、ルフィは“捨てゴマ”とみられているからだ。黒幕がルフィの口封じを狙っているという情報まで浮上した。
SNS上の「闇バイト」で集められた実行役が起こした一連の凶悪事件は、今回の逮捕で大きな節目を迎えた。
容疑者4人のうち先行して7日にフィリピンの入管施設から強制送還された今村容疑者と藤田容疑者は、現地のビクタン収容所からニノイ・アキノ空港への移送では黒いTシャツに青の短パン、サンダルとラフな服装だったが、後ろ手に手錠をかけられてTシャツの下には防弾チョッキを装着する物々しい姿だった。空港で身柄を引き受けた警視庁の捜査員も約30人と、超厳戒態勢での移送だった。
到着した成田空港でもフィリピン出国時と変わらぬ装いだったが、前手錠に変わり、Tシャツの下の防弾チョッキはなくなっていた。
強制送還する人物に防弾チョッキを装着させるとは異例の措置。4容疑者のさらに上に黒幕が存在するとしたら、自身に捜査の手が及ばぬよう口止めしたいと思うことは十分考えられ、フィリピン当局はそのことを想定していたのだろう。
組織犯罪に詳しい専門家は「通常、こうした大がかりな組織的な犯罪では、暴力団のような一つの組織が黒幕となる。しかし、ルフィの黒幕は組織だっていないようだ。しのぎが少ない日本の暴力団関係者、フィリピンに潜伏している元暴力団関係者が金主だったり、アジトを与えたり、マネーロンダリングしたり、モヤっとした者たちがそれぞれルフィの黒幕で、ルフィから上前をはねていたという見方になっている」と語る。
ルフィは入管施設にいた4人の“共同名義”とされ、4人の中でも渡辺容疑者が格上で、過去には暴力団との関わりもあったようだ。ルフィの中でも一番、黒幕と近かったとみられる。
ルフィによる特殊詐欺の被害額は60億円以上、強盗を含めるともっと多額であり、これがすべて渡辺容疑者ら4人で独占されていたとは考えにくい。入管施設は2000万円ほどの賄賂で脱走させてもらえるとの話もあるが、もし渡辺容疑者らが60億円をそのまま懐に入れていたのなら、とっくに脱走できたはず。となると、“上納金”として相当な額のカネが黒幕に流れていたと考えるのが妥当だろう。
ルフィたち指示役と実行犯は、テレグラムなど秘匿性の高いアプリやツールを使って連絡を取る希薄な人間関係だった。実行役はルフィを特定できないが、ルフィ側は実行役の個人情報を握る条件で“即日高額報酬”の“たたき”という仕事を与えていた。この一方的な上下関係が特殊詐欺から強盗殺人に発展した理由だといわれている。しかし、指示役から上は違うようだ。
「指示役と黒幕とはリアルな関係でつながっている場合が多い。つまり、お互いに素性を知っている。また、黒幕はほかにも犯罪グループを管理しているもので、もし4容疑者が黒幕について供述すると、その黒幕が管理する犯罪グループも一気に摘発される可能性がある。それだけにそうした情報が漏れないよう黒幕が口止めに動く可能性は十分にある」(同)
しかも、元暴力団関係者は「“襲撃リスト”には過去に特殊詐欺に引っかかった人、高額納税者など、お金持ちがリストアップされていた。注目なのは、スネに傷があって被害を届けられない人、また銀行にカネを預けられないため多額の現金を持っている人として『暴力団員』が“襲撃リスト”に入っていたそうです。そのリストをルフィに渡した黒幕としては、絶対に中身を漏らされたくないでしょうね。リストアップされたメンツから報復があるでしょうから」と指摘する。
複数の黒幕がルフィを口封じしたいと思っているかもしれない。フィリピン当局は今村、藤田両容疑者に防弾チョッキを装着させる超厳戒態勢を取ったが、本命は渡辺容疑者か? 小島容疑者とともにニノイ・アキノ空港への移送中、さらなる厳戒態勢が必要となりそうだ。