Thursday, March 23, 2023

「定年直前」59歳会社員の独身女性が絶句…「退職金などで2060万円」から予想される「余裕のない老後生活」

川口昭恵さんは、来年60歳。いよいよ定年を迎えます。今回のご相談は、退職金の運用についてです。お一人様なので、今後ひとりで不安なく暮らしていきたいとのことです。投資経験は、会社の確定拠出年金をしていたくらいなのですが、長い老後に備え退職金はNISAで運用をしたいとおっしゃっています。

定年後は、貯蓄の取り崩しと年金で暮らせるのであれば働きたくないとのご希望です。しかし、それで生活が成り立つのか、生活全般の見直しが必要であれば考えたいとお気持ちです。<【前編】「定年直前」59歳会社員の独身女性が嘆息…「退職金」のことで漏らした「不安」>に引き続き、川口様の事例について解説します。

「働かない」選択肢は妥当なのか

まずは、キャッシュフロー的に「働かない」選択肢は妥当なのかを見ていきます。退職金は一時金が800万円と確定拠出年金が700万円です。40歳の時に買った中古のマンションは定年時完済を目標にローンを組みましたから、もうすぐ終了です。住宅ローンの支払の傍らでも、コツコツ貯めてきた預貯金が550万円あります。

公的年金は63歳から特別支給の老齢厚生年金が始まり、65歳からは基礎年金もプラスされます。特別支給の老齢厚生年金は80万円で基礎年金は78万円です。65歳からは年金収入が158万円となりますが、終の住処も準備できていますし、普段から支出を抑えた暮らしをされているので、65歳からの年金生活はギリギリなんとかなりそうとご本人はおっしゃいます。

川口様はすでにご両親を亡くされ、5歳下の妹さんは他県にお住まいです。仮に高齢で一人暮らしが難しくなったら、施設入居も考えなければならなくなるかもしれません。例えば認知症の方が共同で生活を行うグループホームは、老人施設の中でも比較的安価と言われていますが、それでも月12万円程度は費用がかかります。その他、医療費や介護費などがかかる場合もありますから、158万円の年金収入では安心できません。そもそも税金や社会保険料を差し引くと、もう少し手取りは少ない前提で考える必要があります。

そこで70歳まで繰下げを実行するとキャッシュフローがどう変わるのかやってみました。年金額は224万円となりますから、だいぶ月々のお金にも余裕があります。

当時はベストだと思って出した結論でも…

ここまでお話すると、川口様はもともと中古で購入したマンション、40歳の自分目線で選んだため最寄り駅から自転車利用で10分と利便性が優れている訳でもないし、もっと考えて買ったら良かったのにとつぶやかれました。住宅ローンを完済しても、資産価値は払った金額とイコールではないことに改めて気づかれたのです。

当時はベストだと思って出した結論なのに気持ちが揺らぐことはありますが、プランニングをする際はあまり後ろ向きな考えをしない方が賢明です。なにしろ住宅コストは非常に大きいのですから、定年で無収入になっても住居費の心配をすることなく今後の数十年を過ごせる場所を確保された川口様は良い決断をされたと思います。確かに区分所有ですから、売却価値は少ないかも知れませんが、一戸建てより管理は楽でしょうから高齢期の住まいとしてもメリットは大きいはずです。

川口様は、妹さん夫婦との仲は良好で、2人のお子さんもかわいがっています。家族のイベントには呼んでもらうこともあるそうで、いずれ姪っ子さんそれぞれにお子さんが産まれたらお祝いやお年玉くらいはあげたいと夢を膨らませます。たまには自分のところに訪ねてもきて欲しいし、その際は交通費くらいは出してあげたいと、やはり年金繰り下げのプランで考えようとなりました。

では、70歳まで年金を繰り下げた場合のこれからのキャッシュフローに目を向けましょう。退職一時金と確定拠出年金は、退職所得控除が38年間の勤続により2060万円使えるので、全額一括で受け取ります。すると、手元資金が預金と併せて2050万円になります。500万円は、最後までとっておきたいお金とのことなので、1550万円を70歳までの生活資金と考えます。

63歳から特別支給の老齢厚生年金は繰下げができないので、2年間の合計160万円は予備費として横によけておきます。リフォーム費用なども発生するでしょうから、予備費は必要です。すると単純に1550万円を10年で割るので使えるお金は155万円となります。NISAどころか、余裕のない生活が10年続いてしまいます。

会社にも地元の暮らしにも居心地の悪さを感じている

川口様は、健康面も問題はないのですから、筆者には「働き続ける」ことは良いことのように思えました。その旨をお伝えすると、「仕事を辞めることも、続けることも実はどちらも気が進まない」という答えでした。長きに渡り責任のあるお仕事をされ、立派なキャリアをお持ちなのにどういうことなのでしょうか?

「実は、定年後の楽しみにと思って地元のパン教室に少し通ってみたことがあるんです。参加者は私と同年代の方も多かったのですが、1人として仲良くなれる方がいなかったんです。ほとんど専業主婦の方たちで、子どもや孫のはなしや近所の友達とランチに行ったとか、あるいは旦那の悪口で盛り上がっているんです。そんなところに結婚もせずずっと会社員の私には入るスキがありません。仕事を辞めるとこういう人たちと一緒に過ごさなければならないのかと思うと、気が進まないのです。」

実際教室にいた全員が川口様がおっしゃるような「お気楽な」専業主婦だった訳でもないのでしょうけれど、すでにパン教室にはコミュニティができていたので新参者は肩身が狭かったのかもしれません。でも川口様は、会社にも地元の暮らしにも居心地の悪さを感じられているようで、これでは、せっかくの今後の長い人生も前向きにはなれません。

そこで筆者は、「思い描くこれからの素敵な暮らし方ってどういうイメージなんですか?」と聞いてみました。

「そうですね、気の置けない仲間と時にランチしたり、買い物にいったり、たまに旅行に行ったりですかね」とおっしゃるので、「そんな毎日がおくれたら、素敵ですね」とお答えすると、「えっ、でも毎日はないですよね。週に1回?うーん、私は元来出不精だし、1人で家にいてお料理したり片付けしたりするのが好きなので、逆に毎日そんな暮らしでは息がつまるかもしれませんね」とおっしゃいました。

「確かに、毎日お友達と一緒という年齢でもないですよね。ちなみに、お休みの日とかはどう過ごされているんですか?」更に筆者は質問を重ねました。

「たまにですが、友達とご飯に行ったり、コロナで今はできませんが、前は年に1回くらいは海外旅行にも行っていました。実は同期入社の3人のグループがあって、みんな独身で気楽なんですよね。」と笑顔が返ってきました。

「そんな素敵なお友達がいらっしゃるのであれば、なにもパン教室で無理に誰かと仲良くする必要もないんじゃないですか?自然体で通っていれば、親しく言葉を交わせる方もできるかもしれませんし、そうじゃなくてもパンを習うのが目的なのですからそれだけでも十分なのではないでしょうか?」

「アウェイ」での時間の過ごし方が分からない

これは筆者の個人的な考えかもしれませんが、会社員生活が長い方、特に川口様のように新卒からずっと同じ会社で勤めている方は、毎日同じ場所で同じ顔ぶれに囲まれて仕事をしているので、新しい環境、新しい人たちとの関係性に必要以上に構えてしまうような気がします。いわば毎日が「ホーム」なので、「アウェイ」での時間の過ごし方が分からないのです。

逆に20年以上1人で仕事をしている筆者からすると毎日がアウェイです。ご依頼をいただく仕事は毎回違いますし、ご要望も違います。中には何度もお仕事をいただいて親しくさせていただく方もいますが、川口様のように旅行にいけるようなお友達は筆者の「職場」には残念ながらいません。

それに大人になったら、友達100人作る必要はありません。行く場所行く場所で、親しいグループを作る必要もないですし、ご自身が楽しめるのであれば全く問題ないのではと思います。

ましてや仲良し3人組はそろって定年です。きっと今後もずっと仲良くしていけるでしょうから、今のお友達を大切にされたら良いのではないでしょうか?

仮に退職金等の1550万円を70歳までの10年間で生活費として取り崩すとなると年間155万円です。1ヶ月あたり12万円ですから、定年後65歳までの5年間、月15万円の収入を得ることを目標にまずは考えて見られたらどうでしょうか?

5年間で900万円の資金ができればそれを70歳までの生活資金に上乗せできます。月7,5万円使えるお金が増えるので、旅行やお食事会など楽しみに回せるお金も確保できます。会社のお仕事を続けるのがお嫌であれば、アルバイトにトライしてみても良いでしょう。

川口様は、おしゃれにも気を配っていらっしゃるし、お話をしていてもとても楽しい方です。きっと職場でも頼りにされているのでしょう。長い間お仕事をされてきた方にスキルがないはずがありません。きっと素敵なことを発見できると思いますし、仮に失敗したとしても次の女子会のネタとして笑い飛ばせるガッツはおありだとお見受けします。

もちろん会社員として厚生年金加入を継続すれば、公的年金も増えますし、健康保険など国民健康保険より手厚い保障も維持できます。けれどもせっかく定年なのですから、少しこれまでの枠を外して自由にやりたいことを探すのも良いのではないでしょうか?

結論として今回のご相談では、NISAを活用するまでには至りませんでしたが、今後の就労収入によっては余裕資金でつみたてNISAにチャレンジするのも良いでしょう。お得な制度に人生を合わせるのではなく、ご自身の人生にお得な制度をチョイスしましょう。今あるお金が減らないように、減らないようにと節約に努めて暮らすのと、生き生きと働き楽しみながら収入を得て、ゆとりある暮らしをするのか、ご自身でじっくりと検討してみていただければと思います。

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