回転ずし大手「スシロー」で迷惑行為を働いた少年の個人情報がSNSでさらされ、拡散されている。店にも損害を与える非常識な行動をしたとはいえ、第三者が勝手に個人情報をさらすことに法的問題はないのか。ネットの中傷問題に詳しい専門家に聞いた。
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この少年をめぐってはSNS上で実名や年齢、通っている高校名や中学の卒業アルバムとみられる画像が出回り、拡散されている。また「撮影者は父親か」という書き込みもあり、一部報道によると父親は否定している。迷惑行為の動画に少年の顔が出ていたため特定されるのは早く、ここ数日は袋だたきの状況である。
だが、少年はまだ未成年であり、現時点では犯罪の容疑者でもない。そうした人物の個人情報をさらす行為に法的な問題はないのか。
ネットの中傷問題に詳しい清水陽平弁護士は、こうした「さらし行為」には問題があると指摘する。
「プライバシー権侵害や肖像権侵害の可能性があり、少年側が損害賠償請求や投稿の削除を求めて訴訟を起こすことも可能です」
では、少年側が訴訟を起こせば勝てるのかというと「その余地はある」という程度にとどまるという。
「裁判所は、その情報を流した目的や個人情報を書き込む必要性の有無など、さまざまな事情を考慮してプライバシー権や肖像権の侵害に当たるかを判断します。例えば、まとめサイトならお金目的でしょうから、掲載する正当性があるかどうか。事案が発覚した直後の投稿なら問題ないと判断されても、10年後にその投稿がまだ残っていた場合、その必要性はあるかなど、ケース・バイ・ケースでの判断になります」(清水弁護士)
一方、刑法上の問題にすることは難しいという。
「迷惑行為を働いたことは事実なので、名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪は成立しないと考えられます。個人情報をさらされたことで生活に支障が出るなどの被害は受けていると思いますが、個人の平穏な生活を『業務』と言うことはできないので業務妨害罪にも当たりません」(清水弁護士)
仮にある投稿について、プライバシー権や肖像権の侵害が認められた場合、その投稿を拡散した側にも責任は生じるのか。清水弁護士は、Twitterのリツイートなど、拡散した側の責任が問われる可能性はある、としたうえでこう付け加える。
「拡散した目的や投稿の内容によって個々に判断されることになります」
また、「撮影者が父親」の投稿については、
「『撮影者が父親』が事実でなければ名誉毀損の可能性が出てきますが、拡散した人に責任が生じるかはケース・バイ・ケースです」
と解説する。
清水弁護士によると、少年側が取れる手段は、各サイトに対して削除請求をすることくらいしかないという。だが、「デジタルタトゥー」ともいわれるように、次々に拡散されていく状況では、情報を完全に消し去るのは不可能に近い。
過去にもアルバイト先などで迷惑行為をした動画が出回って、当事者が袋だたきにされた事例などは多くある。なぜ同じようなことが繰り返されるのか。清水弁護士はこう推察する。
「今回と同じような騒動は6~7年おきに、20歳くらいの若い人たちが起こしていると指摘されています。われわれ大人は、またか、と思いますが、彼らは前回の騒動のときは幼かったので、騒動をまったく知らないケースもあるでしょう。こうした騒動はワイドショーが大きく取りあげますが、その時間は子どもは学校にいますからね。子どもにスマホを持たせるときに、家庭でしっかり教える必要があると思います」
そして、最後にこう注意をうながす。
「若い人は、ネット上に軽い気持ちで投稿するリスクを強く認識する必要があります。また、これは大人も含めてですが、ネット上のクローズドな場に投稿したとしても、その空間にいる人みんなが同じネットリテラシーを持っているわけではありません。コピーされて流出するリスクがあることを認識してほしいと思います」
悪質な迷惑行為をしたとはいえ、ここまで袋だたきの状況になっていることには、少年の今後を心配する声も出ている。この現状は、抑制する必要がある。
だが、少年側が取れる手段は極めて少ない。浅はかな行為を、悔いてもどうにもならないのがネット社会の現実なのだ。
(AERA dot.編集部・國府田英之)