インバウンド向けの施策をサポート
「インバウンド観光」の振興が叫ばれて久しい。訪日外国人数は右肩上がりの成長を続け、コロナ禍で停滞はしたものの、もはや外国人観光客は経済的に日本にとって無くてはならないものへとなりつつある。
しかし、国外に住む外国人に向けて、国内の観光資源の魅力を上手く伝えることは難しい。インターネットがこれほど普及した現代であっても、そもそも言葉も文化も違う外国人相手では、プロモーションのやりかたも日本人相手と同様にはいかず、困難を感じている人は少なくないだろう。
そんななか、東京都墨田区に会社を構える「Tokyo Creative 株式会社」が面白い取り組みをしている。
同社は、日本在住の「外国人インフルエンサー」を抱えており、外国人の感覚で作成した動画のYouTube配信などを通して、国内の観光資源の魅力を外国人に伝えるサポートをしている。2013年に創業した同社は、2018年からこのサービスを始めたということだ。

代表取締役の中川智博氏は語る。
「当時、アジア圏向けインバウンドビジネスのサポートを行っている会社は多かったのですが、英語圏を専業にやっている会社はほとんどありませんでした。しかし、官民協力のビジット・ジャパン・キャンペーンなどの後押しもあって、インバウンド分野の市況が盛り上がってきていたことから、弊社でもこうしたサービスを始めました」
所属している在日外国人インフルエンサーは、もともと日本で活躍している人をスカウトするか、日本に来たがっている人をサポートする形でスカウトした人が多いという。かれらは、地方へのローカルな旅行を動画にしたり、あるいはライフスタイルを動画化したりするなかで、日々、日本の魅力を国外に向けて発信している。
受発注をつなぐところに独自性
中川氏は続ける。
「弊社では、従来のインフルエンサーの事務所のような“動画のマネジメントまで行う代わりに広告費の何パーセントを戻す”というような契約の形をとっていません。そうしたやり方は独自性がなく、インフルエンサー本人でもできることであるため、限界があると考えています。
弊社の場合は、日本企業と外国人の間の受発注をつなぐところに独自性を見出しています。日本企業からの発注の場合、もちろん言葉は日本語ですし、日本の商習慣もありますので、日本語ができない外国人インフルエンサーにとっては大きな障害となります。弊社は案件を紹介するだけでなく、そのつなぎ役をすることができるので、発注者の方にも受注者の方にも価値を感じていただけていると思っています」
同社が抱えるインフルエンサーの視聴者層は、アメリカが最も多く、次にインフルエンサー本人の出身国、さらにイギリス、オーストラリア、カナダと英語圏の国が続く。

じっさいに手掛けた案件では、飛騨高山の遊技場施設のプロモーションを行った際には、動画がなんと800万再生に達し、同施設の売り上げも2倍になったということだ。
ほかにも、アニメ系のYouTuberが秋葉原のツアーを監修し、催行したところ売り上げの件数が2倍になるなど、直接的に数字につながる成果が多く出ているということだ。
どのような施策が効果的か?
では、じっさいにどのような施策を行うと、外国人相手に効果的なプロモーションとなるのだろうか?
「逆説的かもしれませんが、魅力を打ち出したい施設やサービス、地域そのものに特徴がないと売り出しにくいですね。お客様にまずお伝えしているのは、施設やサービス、地域への愛を持ってほしいということです。その点がハッキリしていれば、プロモーションはとてもやりやすいです。また、じっさいに外国の方が観光に来たとしても、そこにウェルカムな空気が無いと、ネガティブな口コミが広がってかえってマイナスになってしまいます」(中川氏)
日本好きな外国人というと「マンガ・アニメ」のようなサブカルチャーファンを想像しやすいが、必ずしもそればかりではない、と中川氏は言う。むしろ、いわゆる「おたく」はむしろ少ないのだそうだ。日本は、日本人自身が思っている以上に「ミステリアス」な存在で、そこに惹かれる人が多いという。コアな人たちの間だと、「日本の山」がユニークで面白いと評判にもなっていて、5日間程度をかけてひたすら山に登るツアーが人気だったりもすると中川氏は語る。
最後に中川氏は、日本のインバウンド観光の今後の展望について語ってくれた。
「コロナ禍でダメージは受けましたが、遅かれ早かれ2019年度の水準には戻るだろうと考えています。長期的な視点で見ると、日本は人口が減っていますから、何をハブにして稼いでいくかというとインバウンドにならざるを得ないのではないでしょうか。
日本は資源と人口が東京に集中しています。『ロンリープラネット』という海外の旅行ガイドブックでは、日本版は東京・大阪・京都・広島がほとんどを占めていて、東北などは数ページしかありません。
しかし、いまは日本旅行のリピーターも増えていますし、学校で英語を教えるALTなどもたくさんいて、彼らは各地方に散らばっています。そうしたことから、東京以外のローカルな魅力も気づかれ始めていて、地方創生にとって大きな意味を持ってきていると感じています。そういう意味で、日本のインバウンド観光のポテンシャルはものすごく大きいと思っています。
弊社では、地方で観光を盛り上げたいという方と、もっといっしょに発信していきたいと考えています」