マンションの建設費が値上がりしている。デベロッパーの担当者に取材すると、この1年で2割は値上がりしているという。これは新築マンションの価格が上がる強力な要因になる。
その原因はおそらく建築資材費の高騰だろう。資源のない日本では、マンション建設に必要なほとんどの建築資材をはほぼ輸入した原料に依存している。円安によって輸入原料が値上がりすると、建築資材も高くなる。
ほぼ全量を輸入に頼っている小麦が値上がりしたことで、パンやスパゲティの価格が上がるのと同じ構造である。
人手不足も関係している。建築現場では喘いでいる。私は自分の仕事柄、日常で見かける建築現場はわりあい細やかに観察する。小さな現場では、週日でも作業が行われていないケースを多く見かける。おそらく、人手が足りなくて現場を毎日動かせないのだろう。
こういう状況は、これまでにはあまり見かけなかった。それだけ、人手不足が深刻だということだ。
そのデベロッパーの担当者に聞いた建築費の坪単価は、20年ほど前の約3倍だった。
これが新築マンションの販売価格に反映されないはずがない。今年後半から来年にかけて販売が始まる新築価格は、昨年よりも値上がりしているのは確実。ただし、それがスムーズに売れるかどうかは別の問題だ。
昨年の後半から、首都圏の中古マンションの動きが悪くなった。売り出された物件が成約するまでに、時間がかかるようになったのだ。データ上の「在庫」もジワジワと増えている。
日本と同じように不動産市場がバブル化していた中国や韓国では、すでにマンション価格の下落が鮮明になっている。韓国では昨年15%程度の値下がりがあったという報道もある。
日本でも昨年12月に長期金利が実質的に引き上げられた。その後、日本銀行がさまざまな抵抗を続けているが、金利の上昇は避けられないだろう。
2013年に始まった異次元金融緩和は、この春の日銀総裁交代で終了するのは確実。
その後は金利が上昇して、不動産市場には強力な下落圧力が生じる。中古マンション市場は、それを見越して動きを鈍らせているのかもしれない。
そこに、この建築費の上昇である。新築マンションの価格は、不動産市場の潮流とは別個に表面的な上昇を続ける可能性がある。しかし、それは市場の大きな流れとは逆行する動きである。
そういった市場の状況をあれこれ考えると、新築市場の行末には、「暴落」という断崖絶壁が待ち構えているのかもしれない。
リーマンシ・ョックの翌年である09年には上場企業である新興マンションデベロッパーの大量倒産が発生した。
この先、デベロッパーの経営環境が悪化するのは確実。かつてのような連続倒産劇の再来にならないことを願うばかりだ。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。