Friday, September 22, 2023

EVは「大雪で終了」「立往生で凍死」という暴論はなぜ無くならないのか? 感情的にならず、まずは科学的事実・雪国オーナーの声に向き合え

EVは電力不足や大雪のときは使えない?

 この季節になると決まってメディアやSNSで話題になるのが、「電気自動車(EV)は電力不足や大雪のときは使えない」という指摘だ。つい最近も、スズキの鈴木俊宏社長が2022年12月9日に電気通信大学で行った講演で

【画像】寒冷地なのにEVが普及しているノルウェーの雪景色(11枚)

「節電しろって言っているのに、EVを普及させるってどういうことなのか」

と疑問を呈したし、年末に日本海側で発生した大雪による立ち往生や停電の際、SNS上では

「EVだったら凍死するのではないか」

といった趣旨の投稿が相次いだ。このような発言は感覚的には理解できるが、どこまで真実なのだろうか。今回は科学的なファクトやエビデンス、さらに実際に雪国でEVを使用しているオーナーの声などに基づいて、改めてこれらの指摘を検証したい。

節電要請とEVの普及は矛盾するのか?

 ここ数年、主に電力需要が増える真夏や真冬の朝から夕方ごろにかけて、需給のひっ迫による節電要請が相次いでいる。主な原因は、異常気象による想定外の需要増加や原発の停止、電力自由化に伴う不採算の既存発電所の過度な廃止といわれている。そして当然ながらEVの充電には多くの電力を消費するため、一見すると指摘は間違っていない。

 ところが「EVを充電する時間帯」と「電力の需給が逼迫(ひっぱく)する時間帯」が異なるのは、EVを所有したことがある人にとっては常識だ。需給が逼迫する時間帯は、ほとんどが朝夕、あるいはお昼前後だ。一方でほとんどのEVは、電力の需要が少なく電気料金の安い深夜に充電しており、需要の多い朝夕や昼間に充電するのは、長距離を移動する際の急速充電や夜間に車を使用する場合など、ごく一部に限られる。

 これは国交省が公開している「駐車場等への充電施設の設置に関するガイドライン」でも裏付けられており、電力の需要が減る夜間は全体の約6~10%が充電している一方、電力の需要が増える午前7~21時ごろに充電する車両は全体の1~3%前後と、ごく少数であることが分かる。現状だと自宅で充電できないEVオーナーが昼間に出先で充電することもあるが、東京都など都市部を中心に、集合住宅への普通充電器や200Vコンセントの設置が進んでおり、昼間の充電比率は今後さらに下がると予想される。

一斉充電でも0.03%

 次世代自動車振興センターの統計によると、2021年時点での国内のEV保有台数は14万台弱だ。通常は考えにくいものの、仮にこの10%にあたる1.4万台が同時に3kWで充電した場合でも、消費電力は42MWであり、これまでの冬季の国内の最大需要を記録した2021年1月8日の156GW(15万6000MW)と比べると、増加量は0.03%にも満たない。今後EVの保有台数が10倍に増えても0.3%未満だ。

 さらに、後述するが、自家用車は常に9割程度が駐車されており、駐車時間中に充電を終えれば問題ないため、電力の需給に合わせて夜間などに充電時間を調整することは、決して難しくない。実際にこの冬も、多くの電力会社でデマンドレスポンス(DR = 電力需要や市場価格に合わせて単価を変えたり、インセンティブを用意したりすること)などにより、需要を平準化する取り組みが行われている。

 また、米カリフォルニア州が2022年9月に記録的な熱波に襲われ、電力需給が逼迫した際には、一部の報道やSNS上で「EV充電禁止に」と書かれたが、実際は「不急の場合はEVの充電時間を夕方ではなく深夜にずらすように」という要請だった。

 さらに、同州サクラメントで電力網の戦略的ビジネスプランナーを務めるエリック・ケイヒル氏は、同州で予定されている2035年の新車販売100%EV化に「対応できると確信している」という。10年以上という長い準備期間があることに加え、州政府がEVに対する明確なビジョンを示していることから、設備や制度(DRや後述のV2Hなど)を整えることができるというのだ。ただし、逆に言えば「政府などがあらかじめビジョンを示さなかった場合は、対応が困難となる可能性もある」点に注意すべきだろう。

電力不足の解消にも役立つEV

 冒頭で述べた通り、スズキの鈴木社長が節電要請との矛盾を指摘する一方で、EVへの移行に注力する米ゼネラルモーターズ(GM)のマーク・ロイス社長はビジネスインサイダーのインタビューで、

「EVはV2Gにより電力網への負担を減らせる」

と真逆の趣旨の発言をしている。V2G(Vehicle to Grid)は、電力網の需給が逼迫した際などに、EVの大きな蓄電池にためた電力を電力網に供給する機能だ。V2Gはこれまでも日本を含め世界各国で実証実験が進められていて、EVの普及と合わせて実用化されつつある。

 V2Gを語る際によく「車を使う際はどうするのか?」と指摘されるが、2018年に公開された論文「データから読み解く自動車の使われ方の変化~全国道路・街路交通情勢調査自動車起終点調査の分析から~」によると、国内の自家用車は最も需要が増える朝夕でも約1割しか使用されておらず、残りの約9割は駐車中(あるいは運用休止中)とされている。自宅や勤務先などの駐車場に充放電設備を設置することでこれらの車を活用し、需要が少ない時間帯に充電、需要が逼迫した際に放電し、電力網への負担を減らすことが可能となる。

 現時点での課題としては、充放電設備の設置費用に100万円程度(充電のみなら数万円~)かかる点だが、例えばEVに独自の補助金を提供している東京都では、V2H(Vehicle to Home = EVから自宅への電力供給)機器にも10割近い補助金を提供。東京都在住のEVオーナーであれば、ほぼ自己負担なしでEVの蓄電池にためた電力を自宅で使用可能となる。

 加えて充電するための普通充電器や200Vコンセントについても補助金が用意され、1割程度の費用負担で設置できるほか、管理組合での合意形成から支援したり、初期費用を無料にしたりする設置業者も増えており、東京都を中心に全国の集合住宅や月決め駐車場、公共施設・商業施設の駐車場などで設置が進んでいる。

 一方で豪・南オーストラリア州の送配電事業者であるサウス・オーストラリア・パワー・ネットワークスは日産自動車などと協力し、2022年12月にEVとV2Gを使った独自の新サービスを提供開始。需要が少なく電気料金が安い時間帯に充電し、逆に需要が逼迫する時間帯に放電することで、利益が得られるようになった。実際にこの仕組みを利用している南オーストラリア州の「バリークロフト ワイナリー」では、これまで年間6000豪ドル(約54万円)の電気代がかかっていたのが、太陽光発電を導入することで年間2000豪ドル(約18万円)に削減、さらにEVとV2Gを導入することで逆に年間2500豪ドル(約22万円)の利益が出せるようになったという。

 仮にV2GやV2H設備に100万円かかっても、5年未満でもとが取れる計算だ。もちろん太陽光発電の設備にも初期費用がかかるが、一般的に5~10年程度でもとが取れるとされており、合計でも10~15年程度でもとが取れる計算となる。

EVや蓄電池と再エネによるエネルギー安全保障の強化

 近年は春や夏を中心に太陽光の発電量が増加して逆に昼間に電気が余り、市場連動型の電気プランではkWh単価が0円に近づくことも多い。冬でも、年末年始のような企業が休みとなる時期にも発生することがあり、日本卸電力取引所(JEPX)によると、2023年の元日にも、午前10時から14時ごろに下限の0.01円まで下落した。また、沖縄電力では再エネの増加により、元日に史上初となる再エネの出力制御(電力網の需給バランスが崩れて不安定にならないよう、太陽光などの発電を停止する措置)も行われた。

 前述の通り、昼間でも走行中の車両は1割程度であり、駐車中に電気が余っている昼間に充電することで燃料費を節約できるだけでなく、化石燃料の消費削減やエネルギー自給率の向上につながる。日本を含む多くの国がロシアのウクライナ侵攻などに伴う化石燃料の高騰に苦しんでおり、エネルギーのほとんどを輸入に頼る日本では、特に影響が大きい。新電力ネットが公開している化石燃料の統計情報によると、2022年の化石燃料の輸入額は、2013年に記録した最高額(約25兆円)を大きく上回る約30兆円に達するとみられている。

 安定したエネルギー確保が国家安全保障にとって重要なことは言うまでもなく、化石燃料の輸入に頼る限りリスクが付きまとう。再エネ設備を輸入に頼るリスクも指摘されているが、一度設置すれば数十年稼働する「設備」と、常に輸入を続ける必要がある「燃料」では、大きくリスクが異なる上に、再エネ設備は国産化も可能だ。実際に米国では中国産の太陽光パネルに高額な関税をかけ、国産化を進めている。

 これらのリスクに対して、例えば欧州では2022年に2021年の約1.5倍にあたる41GW以上の太陽光発電を追加し、わずか1年で総容量が167.5GWから208.9GWへと約25%も増加した。さらに欧州の二酸化炭素排出量を調査しているCREAのリポートによると、11月の排出量は過去30年間の最低記録を更新した。これは太陽光や風力などの再エネの増加に加え、暖冬の影響などが組み合わさったことが原因とされている。

再生エネルギーはコスト低減、シェア拡大

 再エネはコストの低減とともに、欧州だけでなく米国でも10月の再エネ比率が前年の20.4%から22.6%に増加、さらに欧米に限らず世界中でシェアを伸ばしている。国際エネルギー機関(IEA)が年末に発表した再エネに関するリポート「Renewables 2022」によると、インドや中国でも当初の予想を上回る再エネが導入され、中国では2030年目標の1200GWを5年早く達成すると見られている。

 1年前の予想と比べると、世界全体ではこの1年間で予想より30%多く導入され、さらに今後5年間で2倍に達し、過去20年間に導入された量と同等の量が追加されるとみられている。この結果、2025年には再エネの発電量が石炭を追い抜き、世界最大の電源になるとしている。

 このように化石燃料の消費を減らし、エネルギー安全保障にも寄与する再エネだが、一方で天候などによって発電量が変動することが課題とされ、現時点では主に火力発電や揚水式発電、蓄電池などを用いて変動を吸収している。ただしGMの構想や豪・南オーストラリア州の実例を見れば、大きな蓄電池を搭載していて、一般的な定置型蓄電池よりも安価なEVがこの役割を担えることは、想像に難くない。例えば家庭向けの蓄電池は、最も安価なテスラ・パワーウォールでも工事費込みで1kWhあたり12万円以上かかるが、BYDのAtto3のような安価なEVなら、V2Hの工事費を含めても1kWhあたり9万円程度だ。

 安全保障を語る上で食料自給率が話題になることは珍しくないが、エネルギーがなくては生産した食料をわれわれの食卓まで届けることすら難しい。EVを語る際は単に「車」としての側面だけではなく、インフラの一部という視点を持つことが重要である。

EVは立ち往生したら凍死する?

 冬になると決まってSNSなどで見かける「EVは立ち往生したら凍死する」という意見は、2022年12月に日本海側で大雪が降った際も多く見られた。EVは低温になると電池の性能が低下したり、暖房の使用などで航続距離が短くなったりするといわれており、米エネルギー省の資料によると、氷点下7度の環境では、25度のときと比べて内燃機関車が15%の低下なのに対し、ハイブリッド車(HV)では30~34%の低下、EVは39%の低下とされている。さらに内燃機関車のように携行缶での補給が困難なので、内燃機関車と比べて立ち往生した際のリスクが高まるという指摘は誤りではないように見える。

 それでは、一概にEVは寒冷地や豪雪地帯に向いていないかといえば、そうとも言い切れない。米エネルギー省の試験結果は2013年に公開されたものであり、約10年前の古い車両を使用しているが、まだ公的機関の試験結果に反映されていない最新のヒートポンプを搭載したEVであれば、暖房による消費電力は約3分の1になると言われている。

 さらにテスラなどの一部のメーカーや車種には、出発前に電池を暖める「プレヒート」機能があり、低温による電池の性能低下を抑えることができる。なお、EVは自宅や目的地などの駐車場での充電が基本であり、(特に寒冷地では)日常的に200Vコンセントにつなぐため、プレヒートにより電池が減る心配はない。

 これらの最新機能を装備したEVを用いた公的機関での試験結果はまだ公開されていないが、すでに寒冷地に住む多くのEVオーナーが検証を行っている。例えばYoutubeでさまざまな検証動画を公開しているCanuck氏が氷点下8度の環境でテスラ・モデルYを使って試験したところ、プレヒートをした場合は19%、プレヒートしない場合でも28%の損失にとどまっている。これはあくまで一例に過ぎないが、米エネルギー省の試験結果と比べると、この結果はHVよりも高効率であり、内燃機関車にも迫る効率である。

立ち往生想定、検証結果は?

 さらに国内でも多くのEVオーナーが立ち往生を想定した検証結果を公開しており、近年のヒートポンプ式の暖房を装備したEVであれば、内燃機関車と同様、電池や燃料の残量に応じて丸一日以上は暖房を使えることが知られている。雪国では万が一に備えてガソリンが半分になったら給油する使い方が知られているが、自宅充電が基本となるEVもこれと同様、(雪国に限らず)帰宅後は毎日コンセントに挿して充電することが一般的だ。(なお、筆者は自宅充電できない環境でのEVの購入は推奨しない)

 また、EVはエアコンの代わりにシートヒーターを使うことで、電池の持ちは数日以上まで伸びる。シートヒーターだけでは凍えるという指摘もあるが、例えば多くのEVの性能を検証しているEVネーティブ氏が氷点下29度の環境で立ち往生を再現した試験を実施。試験と同時にライブ配信を行い、「シートヒーターのみ」でも危険な状態になることなく一晩過ごせることを証明している。

 一方でEVは携行缶での給油ができないことから電欠時や解消後の救援を気にする声も聞かれるが、立ち往生のリスクが高い地域には、すでに移動式の急速充電器が配備されている。数分の充電で数十km走行可能であり、多くの場合、近隣の充電設備までたどり着けるだろう。さらにEVからEVへ給電できる車種も発売されており、将来的にEVが増えた場合は、街灯や電柱など電気が来ている場所に非常用コンセントを設け、非常時はそこから給電する方法も考えられる。

 ただし根本的な問題は(EVや内燃機関車にかかわらず)立ち往生を発生させたり、車内での長時間待機を余儀なくされたりする点だ。立ち往生が発生するような寒波はほとんどの場合、事前に予測可能であり、そのような状況では対策なしで車を使用しないことを徹底し、除雪が追いつかないと予測される災害的な状況では迷わず通行止めにするなど、行政の対応見直しも必要だろう。万が一それでも立ち往生が発生した際は命を守ることを最優先し、乗員を車内で待機させるのではなく、救助できる体制を整えるべきだろう。

雪国に住むEVオーナーの声と豪雪地帯でのEVシェア

 国内で量産EVが一般発売されてから10年以上がたち、SNSなどで情報を発信する雪国のEVオーナーも増えている。例えば数年にわたり日産リーフやテスラ・モデル3を乗り継ぎ、Youtubeで生の声を届ける雪国のEVオーナーは

「過去に内燃機関車で一酸化炭素中毒になりかけたことが、EVに乗る理由のひとつ」

という。加えてEVなどに使われるモーターはミリ秒単位での緻密な制御が容易であり、積雪路や上り勾配などで「二輪駆動のEVでも四輪駆動の内燃機関車に匹敵するほど」グリップが向上することで、そもそも「立ち往生するリスクも下がる」としている。

 毎年のように一酸化炭素中毒による死亡事故が報道されながらも、一向になくなる気配がない。原因は明確ながらも発生時に気付くことが難しく、根本的な対策の難しさを証明しているといえる。2022年12月に日本海側を襲った大雪の影響で停電が発生した際も、暖を取るために自宅前に置いた内燃機関車の自動車内にいた女性が亡くなるという痛ましい事故が発生した。一酸化炭素中毒とみられる。

 一方で時を同じくしてSNS上では、大雪に伴う立ち往生で約18時間にわたり足止めされたテスラ車が、一酸化炭素中毒を一切心配することなく車内で暖房をかけながら動画を観賞し、立ち往生解消後はそのまま出発できたという報告も。SNSでは科学的な根拠や統計データなどのエビデンスを一切考慮せずに「凍死する」などと指摘されているが、前述の通り電池の残量が半分程度あれば暖房を使って1日程度、シートヒーターのみであれば数日間は安全に過ごせることが実証されている。

 また、雪国を含む世界で、数百万台のEVが販売された現在でも、筆者の知る限りEVが原因となった凍死事故は一件も報告されていない。雪国でもEVが受け入れられていることは販売状況からも明らかであり、例えばノルウェー道路連盟(OFV)の集計によると、北欧ノルウェーではBEVが2022年の新車販売の79.3%を占めている。

一部では「ノルウェーは雪が少ない」「北部や雪の多い地域ではEVシェアが下がる」という声もあるが、間違いだ。例えばWeather Sparkの統計によると、ノルウェー北部の都市トロムソでは1月の平均降雪量が412mmに達するが、同地域でもEVシェアは78.3%(OFVより)と同国全体と遜色ない。

 積雪量の多いトロムソでは確かに2021年までは他の地域と比べてEVシェアが低かったものの、これは積雪量によるものではなく、他都市との距離が長いにもかかわらず、充電インフラの整備が遅れていたためだ。トロムソでは他の国や地域と同様、乗用車だけでなくタクシーや大型トラックなど、商用車でのEVの採用事例も増えている。

 一方で、日本で最も降雪が多いとされる山形県において、1か月あたりの最大平均積雪量が最も多い新庄市では301mm(Weather Sparkより)となっている。気温の差について指摘する声もあるが、ノルウェーでも寒波が来れば氷点下20度以下まで下がることも珍しくない。無論、さらに低温となるフィンランド、スウェーデン、カナダなどにも多くのEVオーナーがいる。

山形県新庄市を超えるトロムソのような豪雪地帯でもEVが売れている事実や、実際に雪国でEVに乗っているオーナーの声を無視して、「寒冷地や雪国では使えない」「立ち往生したら凍死する」と叫び続けるならば、本来なくせるはずの一酸化炭素中毒による死亡事故も、なくせないだろう。印象や想像だけでなく、実際のデータや科学的なエビデンス、オーナーの生の声に耳を傾けてほしいと、切に願う。

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