日本が目指した戦闘機の国産開発
防衛省は、将来の防空を担う航空自衛隊の次期戦闘機を英伊と共同で開発する方針を定めた。まだ詳細が明らかではなく、今後の折衝で行方が左右される余地も大きいと思われるが、この決定は従来の米国機導入や国内開発とはまったく異なる路線だ。
戦後の日本政府と企業は、自衛隊の使用する兵器をできるだけ国産化する方針を採ってきた。米国から兵器を買うだけでは、日本の防衛環境に適した兵器は手に入れにくく、外貨も流出する。必要な装備を国産化できれば、防衛費の支出は国内の技術育成や雇用創出につながり、乗数効果の高い公共投資として国内経済にも大きく貢献する。
たとえ輸出できなくとも、数を必要とする装備品を国産化すれば、経済効果や補給の面で合理性はあり、日本の国土面積や経済規模なら、輸出に依存せず防衛産業の自立は可能である。そうした国産兵器の到達点として目標にされたのが、防空を担う純国産戦闘機だった。
1980年代には、次期支援戦闘機FS-Xの国内開発が計画され、後に続く純国産主力戦闘機への足掛かりとされた。しかし知られているとおり、日米貿易摩擦に端を発した米国の介入によって、FS-XはF-16戦闘機の改造開発とすることが決定され、これが現在のF-2戦闘機となった。
東西冷戦が終焉(しゅうえん)を迎えた1990年代、日米関係は明らかに形を変えつつあり、日本の兵器開発が岐路に立ったことを示す出来事であった。
主力戦闘機の国内開発に向けて
それでも国内メーカーと防衛省は、将来の主力戦闘機開発を諦めなかった。むしろ、F-2開発の苦い経験から、国内開発能力の必要性が改めて明らかになったと考えた。
F-2開発の傍ら、防衛庁(当時)と国内メーカーは米国で進むF-22戦闘機の開発を横目でにらみながら、将来必要となる技術の取得やエンジン国内開発の基盤整備のため、研究開発の予算要求に向けて折衝を繰り返した。
国内開発実現の鍵として課題にされたのは、レーダーに映りにくいステルス技術、胴体内に収容したミサイルの発射技術など、機体設計に関わる技術の研究開発と、戦闘機用エンジンを開発できる施設の整備であった。もはや米国からの技術導入は期待できず、こうした核心技術を独自に獲得する必要があった。
しかし、このもくろみは思うように進まなかった。
技術実証機の開発計画は何年も繰り返し却下され、やっと開発が認められたときには中国にも追い越されている始末で、日本は完全に出遅れを強いられた。そして、エンジン開発施設の規模も大きく縮小され、戦闘機用エンジンの開発環境は整わなかったのである。
日本の戦闘機開発を認めない米国
現代の戦闘機用には少なくとも15t級の推力が要求される。日本でも防衛装備庁と石川島播磨重工業(当時)が「将来戦闘機」研究開発の一環で15t級のXF9エンジンを試作し、地上運転を実施している。戦闘機の国内開発に向けた努力は、この段階までは到達できた。しかし、日本でこのエンジンを実用開発することが不可能なのである。
飛行機の開発に飛行試験が必要であるのと同様、エンジンも飛行を模擬した試験を行わなければ、実用に向けた開発はできない。その試験方法のひとつが、テスト用の航空機に試作エンジンを取り付けて、上空で運転するFTB(Flying Test Bed、空中飛行試験機)試験である。日本でも、過去にJ3、FJR710、F3、F7といった各種エンジンのFTB試験が行われ、練習機や哨戒機などの国産機に搭載されてきた。
しかし、戦闘機用のエンジンは推力も寸法も大きいため、この方法では試験できない。そのため、地上に建設したATF(Altitude Test Facility、高空性能試験設備)という設備を使い、高空での運転状態を模擬して試験する必要があるのだが、十分な能力の設備が日本には存在しない。
日本の航空技術者たちは、将来戦闘機を構想するなかで、当然15t級を試験できるATFの建設を求めていた。しかし、北海道の千歳に建設された防衛装備庁のATF(2001年完成)は、5t級の規模にとどめられた。この時点で、日本の戦闘機用エンジンは、外国の手を借りなければ開発できないことが決まっていたのである。
こうした決定の背後には、日本による戦闘機開発を認めない
「米国の意向」
もあったのだろう。日本の防衛政策は、常に米国の掌中に握られている。
日本の国情に見合った戦闘機を
では、推力15t超のエンジンを運転できるATFを保有しているのは、どこの国か。米国、ロシア、中国は言うに及ばないが、イギリス、フランスが十分な性能を有するATFを保有している。
日本で研究試作された先述のXF9エンジンは、次世代戦闘機用として希望が持てる存在だが、これを完成させるために外国の施設を使用するのは困難だ。
となれば、米国以外で、自前の開発環境を持つ国と手を組み、少しでも日本の国情に見合った戦闘機を共同開発するしかない。
問題は、共同開発において、どれだけ日本の自主性が守られるかだ。フランスやイギリスの防衛事情は日本とは大きく異なり、戦闘機に求める性能は同じではない。また、搭載する日本製兵器に合わせた設計や、それら独自兵器の情報をどう扱うかも、技術保全上の課題となるだろう。
先行きは決して楽観視できないが、この事業によって日本が得られる成果が、少しでも大きいことを願うばかりである。